『ワインの女王』
『ロマネ・コンティ1935年』
開高 健 著
文春文庫
ロマネ・コンティといえば、ブルゴーニュの最高峰。
世界で最も高い価格で取引されるワインです。
2人の男(重役と小説家)が誰もいない料理店でこの名品を味わうというだけの話
なのに、かくも細かい描写で味わいが記される。
2人はこの貴重品を大きな期待とともに口にしたとき、思いがけず、
手ひどい墜落を覚える。
「くちびるから流れは口にはいり、ゆっくりと噛み砕かれた。
歯や舌や歯ぐきでそれはふるいにかけられた。
分割されたり、こねまわされたり、ふたたび集められたりした。
…(略) くちびるに乗った時の第一撃にすでに本質があらわれた。
…(略) それが枯淡であるのか、
それとも枯淡に似た全く別のものであるのかの
判断がつきかねたので…(略)
ただうつろさしかなく、球はどこを切っても破片でしかなかった。
酒のミイラであった。」
ワインに凝る人って、飲むまでに手間をかけ、うん蓄傾けて、
ああだこうだ言うのが常だけれど、そこがまた、
ワインの楽しさなのです。
小説家の思いは過去へとフラッシュバックして、
瓶の底が見えた時、現実にひきもどされる。
そして、この饗宴は終わる。
『ワイングラスは殺意に満ちて』
黒崎 緑 著
文春文庫
どうしても、”ワインのお勉強”的な本ばかり紹介してしまうので、
ここで、軽く読めるミステリーをご案内。
レストラン「フィロキセラ」の女性ソムリエ富田香が、
酒庫から発見されたグルメ評論家の殺人事件を推理する。
各章におしゃれなタイトルがついていて、
第一章 「食前にキールをどうぞ」
第二章 「前菜に合わせてシャブリ・レクロを」
第三章 「一息入れて、肉汁スープをどうぞ」
から
第七章 「食後にカルヴァドスをどうぞ」
まで、あきさせません。
ちなみに、キールというのは、アペリティフワインで、
食欲をそそるための食前酒。
カルヴァドスというのは、りんごを原料としたブランデーで、
フランス、ノルマンディー地方の特産酒です。
中島 義道 著
2002年1月講談社刊
人類は、粗野な人種と繊細な人種という二種類の人種から成り立っている
そして、粗野な人種は人生でいつも勝どきをあげる。
繊細な人種はいつも負ける。
粗野なものは「悩まない」という強さをもっている。
「気にしない」という鈍感さをもっている。
「忘れる」というずるさをもっている。
これを真似することはできない。
著者は、大学のコミュニケーション学科教授。
哲学の道場も主宰している。
30年前の自分あてへのメッセージが、毎月の手紙形式で書かれている。
カインというのは、『旧約聖書』にある、カインとアベルの話から
つけた名で、神からつけられた、カインのしるしを持つものは、
どう生きるべきかが示されている。
私見を言わせてもらえば、この著者は「変な人」で「かわっている」としか
思えないのだけれど、世の中にはこういう考え方の人間も
いるということで、読んでみるのも悪くない。
著者のいうマジョリティ=善人とカインには深いへだたりがあり、
自分はマジョリティなんだろうか、けれどカインの考えにも
納得する部分があり、
へんなの、と思いながら、ついつい読み進んでしまった。
各章は、以下の通り。
1. どんなことがあっても自殺してはならない
2. 親を捨てる
3. なるべくひとの期待にそむく
4. 怒る技術を体得する
5. ひとに「迷惑をかける」訓練をする
6.. 自己中心主義を磨きあげる
7. 幸福を求めることを断念する
8. 自分はいつも正しくないことを自覚する
9. まもなく君は広大な宇宙のただ中で死ぬ
…となにやら不道徳なことが書いてあるが、
これは、あくまでもカインであるきみへ、の助言であり、
マジョリティへの対抗手段、あるいは共存への方法、なのであります。