『明治の東京』 鏑木清方 著
山田 肇 編
岩 波 文庫
日本画家の大家、鏑木清方が、生まれ育った東京の思い出を語る。
書かれたのは昭和になってからであるが、思い出すのは子供の頃の明治時代である。
「兎と万年青(おもと)」の項によると、明治初期に兎が狂的に大流行。
仲買人から種兎を買って繁殖させる。
京橋区新富町の廓跡では、兎市がたち、白兎もあれば黒、鳶、茶色、斑の色々毛並みの違ったのが並ぶ。
店の男は、箱から出した兎の耳をつるして、面白おかしい言い立てで競売(せりうり)する。
ただ一色、白だの黒だのは安く、斑の形の珍しいもの、金目、銀目など、多少とも普通に変わったところがあれば、それが高値を呼ぶ。
こういう取引が2年ほど続き、それに飽きがくると今度は万年青が流行する。
これも、花火のように消え、財産を潰してしまう者も出たという。
その他、『草双紙』、『東京の山の手と下町の違い』、『新富座』の話、『築地や銀座の回想』、『明治の東京語』など、著者の記憶に残る江戸情緒の残る東京がつぶさに語られる。
この時代に生まれていなかったのに郷愁をそそられるのは何故だろう。