『ふりだしに戻る』  ジャック・フィニィ 著
                 福 島  正 実 訳
                 角  川  書  店
                  

主人公サイモン・モーリーに政府の秘密プロジェクトの一員と名乗る
男がたずねてくる。
そのプロジェクトとは、選ばれた「現代人」を
過去へ送り込むことである。

すでに候補に選ばれた何人かは
映画のセットのような、「行きたい時代」の環境の中で
その時代の生活をして、訓練をしている。

サイは、1880年代から変化のほとんどないセントラル・パークを
見下ろす、これまた昔の面影のままの
ダコタアパートに住み、
過去へ行く事を念じ続ける。

そして、ついに1881年の冬のニューヨークに立つ。

ガールフレンド、ケイトに頼まれたある事を調べるため
そして、その調査のために
潜んだビルで大火災にあい、犯人に仕立てられたり…。
下宿先では、ジュリアという恋人と出会う。

とにかく素晴らしいのは
1880年代のニューヨークの様子がありありと描写されていること。
男達は、タバコ唾を痰壷にぺっぺと吐き出し
酒場の床は茶色い唾でいっぱい。
自由の女神はまだ腕だけしかできていないし
当時の人々の風俗の描写もリアルで
自分がその時代に立って見ている
錯覚をおこしてしまう。

ジャック・フィニィの19世紀末から20世紀初めへかけての
世界に対する強い回帰願望、
1880年前後の古き良き時代への熱い想いが
凝縮されて、読む側にビンビンと伝わってくるのである。

掲載されている古い写真やスケッチは当時のものである。

サイは、1880年代でかなり動き回る。
『流れの中の小枝』理論によれば、
「時間を川の流れに例えると、巨大な流れの中に
落とされた小さな枝、が
果たしてその流れに重大な影響を与えるのだろうか、
いや、その広大さの中の流れの小枝は
ほんのわずかでも影響を与えることはとうていありえない。」
というもので、サイの関わった過去は容認される。

けれど、プロジェクトの責任者、ダンジンガー博士は
過去への干渉が未来に及ぼす影響に慎重であり、任務を外れてしまう。

そこで、物語の最後にサイがしたことは……。





  『時の旅人』   ジャック・フィニィ  著
                浅 倉 久 志  訳
                角 川 書 店  刊


『ふりだしに戻る』から25年も経て書かれた続編。

19世紀へ戻って、ジュリアと結婚し子供までいるサイモン・モーリー。

一方、現在は、彼が細工した過去によりプロジェクトの存在しない世界となる。

ところが、過去から戻って「プロジェクト」の記憶のある
マクノトーンは
サイのいる過去へとんで、彼の計画を妨害する。

サイは現代に戻らなくてはならなくなり
今度は1912年へと向かう。

任務は第一次世界大戦の回避である。

ここでも1912年の写真がたくさん載っていて
当時の情景が描かれる。
昔の人間は顔も現代と違う。何故だろう。
その時代による思想と出来事と、独特の経験が
それを作り上げているのだ。

1912年である人物を追っていたサイは失敗し、次に
1911年、あのタイタニック号に乗船する。
タイタニックを沈没から救うのだ!

ほんの少し針路さえ変えれば、船は氷山に衝突しないで済む。

けれど、少しの改変で果たして歴史は
変わっていくのだろうか。




  『タイム・リープ』   高畑 京一郎  著
                 主婦の友社 刊


高校2年の翔香(しょうか)は昨日の記憶をなくしているのに気づく。

階段を落ちたり、植木鉢が上から落下してきたり
イスを倒されたりするたびに
時間移動が起きてしまうのである。

秀才、若松君の力を借りてこのなぞを解く翔香。

『タイム・リープ』とはいわゆるタイムトラベルと違い
意識の時間移動で
一週間というサイクルが月火水…と順番にくるのでなく
ランダムにやってくる。
明日がきのうで、今日があさってで…とややこしい。

テスト問題も、試験が終わった日が先にくれば
問題があらかじめわかっているから、満点がとれる。
タイム・リープは体の移動がないので同じ時間を繰り返さない。

この時間のパズルを主人公と一緒に解いてみて下さい。

最後にピースがカチッと嵌まった時
「ああ、そうだったのか」と大きく納得すると思うよ。

ちなみに、この映画化のビデオがでています。
しいかはビデオを3回も続けて観てしまいました。


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